中部建設青年会議では、未知普請の趣旨に賛同する団体として、
中日新聞社主催で行われた「みちのお話絵本」ストーリー募集を後援しました。

絵本作家の木村裕一先生をはじめとする審査委員会において見事
“中部建設青年会議賞”に決まった小田さんご家族からの応募作品を紹介します。

「心をつなぐ花の道」

           小田ファミリー  (小田匠馬・小田明範・小田美津子・小田知弥)

 あやちゃんは今日も病室の窓から外をながめていました。
春からは黄色い帽子をかぶって学校に通うはずでしたが、とても重い病気なのでそれもできません。
あやちゃんは一年生の下校時間になると、病院前の道を見るのが好きでした、
楽しそうに帰っていく友だちの姿をみて、(いつか自分もあんな風に学校へ通うんだ。)と元気が出てくるからです。

 ただ一つ残念なことがありました。町の中にある病院前の道には、空き缶や紙くずがたくさん落ちていたのです。
忙しそうに歩いていく大人達は散らかったゴミに気づいているのか、いないのか、せかせかと通り過ぎてしまいます。

 いつもの下校時間、いつものように一年生達がワイワイと帰ってきました。
あやちゃんは紙ヒコーキを窓から飛ばしました。
 「あれ、紙ヒコーキだ。」
それを拾ったのは、一年生のさとるくんでした。
広げてみると、何か書いてあります。
「ゴミをひろってくれて ありがとう 道をきれいにしてくれて ありがとう」
さとるくんが、紙ヒコーキの飛んできた方を見ると、病室の窓から女の子が手をふっています。
さとるくんも手をふると、近くに転がっていた空き缶を一つ拾って家に帰りました。

 次の日もさとるくんは学校からの帰り道、病院の前で紙くずを一つ拾いました。
そしてあやちゃんに手をふって帰りました。あやちゃんもにっこりしてさとるくんに手をふります。
その次の日も、そのまた次の日も。

 今では病院の前を通る一年生みんなが帰る途中で、ゴミを一つ拾ってあやちゃんに手をふるようになりました。
道はすっかりきれいになって、拾うゴミを見つけるのが大変なぐらいです、
あやちゃんも毎日さとるくんや友だちに、にこにこしながら手をふっていました。

 ある日、いつものようにさとるくんがゴミを拾ってあやちゃんを見ると、おいで、おいで、と手まねきをしています。
あれ?と思ってさとるくんが近づいていくと、あやちゃんがシュウッと紙ヒコーキを飛ばしました。
さとるくんがあわてて拾って開いてみると、花の種が入っています。
あやちゃんはお願いでもするみたいに両手を合わせて頭をコクン、と下げました。

 さとるくんは、OKの手を高くあげて、道端にその花の種をまきました。
あやちゃんにもさとるくんたちにも楽しみができました。
この話を聞いた近所のおじさんやおばさんたちが、水をまいたり肥料をあげてくれたおかげで、種は小さな芽を出しました。

 今では一年生たちの拾うゴミはほとんどなくなってしまいました。
そのかわりに、どのくらい芽が大きくなったか、あやちゃんに両手で知らせるのが日課になりました。
あやちゃんはピンクのほっぺをますます赤くして喜びました。

 しばらくして寒い日が続きました。
この一週間、さとるくんたちが病院の前を通ってもあやちゃんの病室の窓は開きませんでした。
でもさとるくんたちは、ゴミを見つけたら拾うことを忘れませんでした。
そしてあやちゃんの窓を見ることも。

 ある日、学校にあやちゃんのお母さんから手紙が届きました。
手紙にはこんなことが書かれていました。
あれからあやちゃんの病気がとても重くなってしまったこと。
みんながゴミを拾ったり、花の種をまいてくれたのを、あやちゃんはとても喜んでいたこと。
そしてその花が咲くのをとても楽しみにしていること。

 さとるくんたちはあやちゃんの願い通り、ゴミを拾い続けました、それに花のお世話も忘れませんでした。
そして春−。
病院前の道はゴミ一つ落ちていない、きれいな道になりました、そして道端にはそれは見事な花が続いています。

 さとるくんたちはいつものようにあやちゃんの窓を見ました。
やっぱり窓は開いていません。
がっかりして帰ろうとすると、目の前にあやちゃんの姿がありました。
車いすに座ってにこにこしています。
「やっと外に出られるようになったの。きれいな道にしてくれてありがとう。」
わあっとさそるくんたちはあやちゃんの周りにかけよりました。
たくさん、たくさん、話したいことがありました。
道端に咲いた花がそよそよと風に揺れていました。
                                       終

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